同人誌で小説を書こう!地の文書き方編

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地の文の書き方

前回は小説の視点を紹介しました。
今回は小説で欠かせない地の文を解説します。
地の文は小説におけるナレーターの役目です。地の文できちんと読者を小説の中でナビゲートできるかどうかで、読んでもらえるか、そして面白いと思ってもらえるかの分かれ道かもしれません。
地の文は地図のような存在です。地図がめちゃくちゃだと、当然ながら迷子になりますし、疲れてしまいます。もしかすると旅をするのをやめてしまうかもしれません。
もしきちんとした地図で案内できるならあなたが見せたいものへ、きっと読者を誘導できるようになるでしょう。

地の文とは

小説を書こうとする時に「セリフ」と共に描かれるのが「地の文」です。台詞以外の文章を地の文と言います。

目の前に昔の山々の姿が現れました。呼べば答えるようでした。旧道をとることにしました。その道はもう踏む人がなく、道の姿は消え失せて、ただの林、ただの山坂になっていました。その道を行くと、桜の森の下を通ることになるのでした。
「背負っておくれ。こんな道のない山坂は私は歩くことができないよ」
「ああ、いいとも」
男は軽々と女を背負いました。
男は始めて女を得た日のことを思いだしました。その日も彼は女を背負って峠のあちら側の山径を登ったのでした。その日も幸せで一ぱいでしたが、今日の幸せはさらに豊かなものでした。
『桜の森の満開の下』坂口安吾

実は地の文にも語り手がいます。
前回まとめた『視点』を思い出してください。一人称か、三人称か、神の視点かで視点(語り手)が変わってきます。
例文は登場人物の一人、男の三人称ですね。

地の文に何を書けばいい?

台詞は書けるけど地の文は苦手、と言う方も多いのではないでしょうか。あるいは三人称の地の文が書けなくて悩んでいるという人もいるかもしれません。
地の文とは一言で言ってしまうと『説明』です。

  • 場所
  • シチュエーション、舞台
  • 季節や気候、時刻などの時間
  • 人物描写 など

いわゆる目に見えているもの=客観的にわかるものを説明します。

例1)
山田は朝六時に家を出た。去年から温めていたプレゼン資料がカバンに詰まっている。初舞台の緊張と興奮で二月だというのに寒さは感じなかった。山田は駅のホームに付くと温かい缶コーヒーを自販機で買う。電車が来るまでにはまだ時間があった。待合室のベンチに腰を下ろすと、学生時代の思い出が山田の脳裏に蘇ってきた。

例2)
目を開けるとカーテンの隙間から明るい日差しが漏れている。「ヤバい!」私は叫んでベッドから飛び起きた。昨日クラスメートのリサと夜遅くまで電話していてすっかり寝過ごした。スマホを見るともう8時。どうしてママは起こしてくれなかったんだろう。その時私は、家の中がしんと静まり返っていることに気が付いた。

例1は山田の三人称視点、例2は一人称視点の地の文です。主に登場人物の置かれた状況(時間や場所、社会的地位など)を説明しています。
説明、と言われるときっと真面目な人は全部克明に説明しなきゃいけない、と思うかもしれません。
例1の山田の持っている鞄のメーカーやくたびれ具合や電車の時刻表まで書き込む必要はありません。必要なものだけ、ピックアップして書けばいいのです。

地の文を書く時のポイント

では良い地の文とはどんなものでしょうか。
最初に書いたように、地の文はナビゲーションですね。ナビゲーションとは情報です。
地図なら、建物の名前や、距離、縮尺が記載されていないと役に立ちません。
重要なのは読者が小説を読み進めるための情報です。ただし説明『だけ』を延々と聞かされるのは飽きてしまいます。情報として読んでもらえるように書くのが大切です。
理想は地の文が自然に頭に入ってくることですが、初めて小説を書く時はなかなか難しいと思います。
ポイントをいくつかまとめますので参考にしてみください。

光景と心情

行動や光景と合わせて心情を表現します。「世界が輝いて」見えたりする時は、心がきっとうきうきしているのでしょう。もしかすると、道端に咲いている花に目がいくかもしれません。逆に友達同士の楽しい会話が「雑音のように」聞こえるのはショックなことがあったからかもしれません。ニュースでもネガティブな情報ばかり見てしまうかも。
メインの視点のキャラクターになりきって、世界がどう見えるか説明してみましょう。
自然と何を説明しなければならないのか見えてくるはずです。
また、キャラクターの台詞が説明的になりすぎる場合は、地の文にその説明を託してみるのも一つの手です。

演出と誘導

小説を読んでいる人に、何を伝えたいか考えてみましょう。
ある女性がとても美しい、ということを描写したい時は顔かたちやスタイルを細かに書くのも表現の一つですが、演出として書くのなら、「彼女を見た時、みんなは喋る事さえ忘れてしまった」のように周囲の反応を書くのもよいでしょう。
また、読者にどこに注目してもらいたいかは地の文で道しるべをつけましょう。調査したりしたことや知っていることをつい、書きたくなってしまいますが小説全体から見て不要であれば思い切ってカットしてみることも必要です。どこに読者を誘導したいのか、つまり小説の見せ場や舞台を地の文で作ることができます。

地の文のバランス

地の文を長く書くと退屈に見えたりするのでは、と心配になることもありますよね。
適度に句読点を入れて、テンポよく読み進められるように工夫してみましょう。一文に二つ以上の要素を盛り込むと読者は理解するのが大変です。
メリハリのある地の文は台詞がなくても適度な緊張感をもたらします。

奥に近づくに従って、玉を砕くような鋭い音は、洞窟の周囲にこだまして、実之助の聴覚を、猛然と襲ってくるのであった。彼は、この音をたよりに這いながら近づいていった。この槌の音の主こそ、敵了海に相違あるまいと思った。ひそかに一刀の鯉口を湿しながら、息を潜めて寄り添うた。その時、ふと彼は槌の音の間々に囁くがごとく、うめくがごとく、了海が経文を誦する声をきいたのである。
そのしわがれた悲壮な声が、水を浴びせるように実之助に徹してきた。深夜、人去り、草木眠っている中に、ただ暗中に端座して鉄槌を振っている了海の姿が、墨のごとき闇にあってなお、実之助の心眼に、ありありとして映ってきた。それは、もはや人間の心ではなかった。喜怒哀楽の情の上にあって、ただ鉄槌を振っている勇猛精進の菩薩心であった。実之助は、握りしめた太刀の柄が、いつの間にか緩んでいるのを覚えた。彼はふと、われに返った。すでに仏心を得て、衆生のために、砕身の苦を嘗めている高徳の聖に対し、深夜の闇に乗じて、ひはぎのごとく、獣のごとく、瞋恚の剣を抜きそばめている自分を顧ると、彼は強い戦慄が身体を伝うて流れるのを感じた。
『恩讐の彼方に』菊池寛

 

地の文を適度に書けるようになると、自分の小説の伝えたいことが読者に理解しやすくなります。

地の文を書くこと=俯瞰的に自分の小説を見てみることで、意外と自分の書きたいことに気づいたりすることもあります。

今まで苦手だな、と思っていた方もぜひ、挑戦してみてください。

今回引用の文章は『青空文庫』さんより。

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