「1週間でマスター 小説を書くための基礎メソッド」
奈良裕明(著) 編集の学校(監修) 雷鳥社
……この本は「小説を書きたい!」と願うアナタの気持ちに応える、徹底した「技術の書」です。私はこの本が、パソコンや自家用車やスパナと同じように「便利な道具」として、アナタの手の中でボロボロになるまで使われることを望んでやみません。
-はじめに より-
目次をみると、7日間に分けて課題が書いてあります。入門編から始まり次第に応用という感じでしょうか。ちなみに2週間で小説を書くという本もありましたが、期間が圧縮された分1日でやることはかなりのボリュームがあります。
ただ、パートが小さくわかれていたり、図による説明が入っているので実際に読んでみるとそれほどの圧迫感はないと思います。小説の書き方を扱う本にしては図説が多いですね。編者がスクールなので生徒が飽きさせない工夫というべきか…。ページ数がけっこうあるので本自体分厚いです(約3cm)。大きさは新書より一回り大きいです(おおよそB6サイズ)。
また設問が1日ごとについていて、解説もばっちり掲載されています。タイトルが固いイメージですが、本文は小説好きが「楽しんで書く」スタンスで書かれていて読みやすいです。
おすすめポイント
- 小説初心者にも図説があってわかりやすい
- 設問に対する解説がとても詳しい
- 妄想を具体的な構想に落とし込む方法がわかる
ちなみに設問の問題は海外文学から日本歌謡と幅広いです。また、1行ごとに解説があったりとこれまで紹介してきた「小説を書くために読むべき本」の中では一番丁寧です。
最後の妄想を構想に落とし込むことで、小説が破たんしたり、あるいは書くことに挫折してしまうという悲劇を防ぎます。作品は完成させることでようやく日の目をみます。私も耳が痛い言葉です…。
おすすめのタイトル
小道具の役割
小道具の役割は、まず「登場人物の特徴をハッキリさせ、読み手へ強烈に印象付けること」にあります。(略)
それは「物を書くことで、心の様子を伝えるため」です。
-第2日目 より-
ちなみに、小道具は「背景・風景・部屋の様子・天気・服装・アクセサリー・乗り物・武器」とあり、例えば「天気」ですが、誰かを弔う墓地のシーンは大抵雨や曇天ですね。現実では快晴もあるはずなんですが、弔う人の心情を反映してしとしとと降る雨が合います。
単なる「説明」ではなく、「描写」の場合、物を登場させてキャラクターの心を語る、というのはとても読み手の印象に残ります。
風通しが良い文章
書き手が甘え、”なあなあ”で書いているうちは、まだ文章は「書き手」だけのもの。言葉を換えれば、誰も読んでくれませんし、たとえ読んでくれたとしてもゼッタイに「良かったよ。面白かったよ。」とは言ってくれません。なぜ?
-第4日目 より-
その答えは「隙間が無いから」。見た目の行間や改行のことではなく、読み手が話しに入りこんでいく隙間です。隙間があればこそ、読み手は話の中に入って「面白い」とか「楽しい」と感じられるのです。
逆に隙間の無い(読み手が入り込めない)文章とはどういったものかが挙げられています。
- 「俺」「私」「僕」の洪水
- 共感できない他人事
自分のことばかり描いてある文章(独り言)に共感するのは難しいでしょう。ですが、「誰もが思い当たるフシ」として描かれている場合は共感できる小説(文章)になります。そのためには書き手が「他人」となって「自分」を観察する客観的な視点が必要です。
「妄想」を「構想」に変える
ここでは「ハコガキ」という手法が紹介されています。ハコガキを作る理由は「アイデアを形に変える」ため。妄想するのは楽しいのですが、漠然とした妄想は頭の中に放置していても具体的な形(話)になってくれません。また同じ妄想に囚われて時間ばかりが過ぎていく、ということはよくあります。
適度に妄想はアウトプットしましょう。
【ハコガキの作成方法】
用意するもの…メモ用紙の束(ハガキより一回り小さいサイズ)、私は付箋でもいいと思います
- 場所:~
- 時間:~
- 登場人物:~
- 出来事:~
- 主な台詞:~
以上を一枚ごとに記入していきます。アイデアなので何枚作成してもいいでしょう。書きたいシーンや台詞がある場合それをまず埋めて行きます。
作成したら横一列に並べます。
【整理の手順」
- 無駄な場面だと思えたらカット
- 前後のつながりが悪かったら、新たな場面を加える
- 前後の順番を変えてみる
ハコガキ作りは、ストーリーの矛盾をなくし無駄を省くだけではなく、俯瞰的に物語を見る事ができます。誰も共感してくれない「独り言」になっていないか?それも確認します。
ラストは「ストン」か「余韻」
短編小説においては、ラストで読み手の心を動かす、二つの「型」があります。(私が決めたのではありません。現に「ある」のです。)
それが「ストン」と「余韻」です。
ここでは「ストン」の例に刑事もの(というより探偵もの)、そして落語が挙げられています。
「ストン」は最後の一行(ラストシーン)で読み手にナルホドと納得させるラストです。
「余韻」は本を閉じた後も心の中に漂う「何か」があるラストです。じんわり胸に残る余韻、名作には必ずと言っていいほど存在します。そんな余韻を漂わせるには、どうしたらいいか?
- 時間・運動の継続を述べる。
- 空間の広がりを強調する。
というシンプルな二点です。
1.のラストシーンに登場人物の行動を持ってくる。例えば、『ぼくは、雨の上がったグラウンドに向かって勢い良く走り出した。』などです。ある程度、読み手が物語の結末後を想像できる描写にします。例が微妙ですが、連載漫画の打ち切り回のラスト…と言ってもいいでしょう…。
2.空間の広がりは、俳句の例が挙がっていますのでそのまま引用します。
古池や蛙とびこむ水の音
夏草や兵どもが夢の跡
古池や…は蛙の小ささを描くことによって周囲の広がりを表現しています。
広い空間を目の当たりにして感じる感慨が、余韻として残ります。
まとめ
「規則正しい生活を」とか書かれているあたり、さすがスクールの教科書…と思ってしまいます。が、実は正しいと思います。以前、脳神経の本を読んでいる時に「脳とは本来変化を求めるものだ。だから毎日判で押したような生活を送っている人は実はすごいことを考えてるんじゃないか」って書いてあって、ナルホドと思ったのでした。
本の内容は上で挙げたのは本の一部です。他にも「ユーモア」や「書く視点」についても詳しく書かれていておすすめです。「書く視点」はとてもわかりやすい。あとは小説を書く上でやってはいけないこと(なぁなぁになるな!等)も網羅してます。
タイトルにある「1週間」はちょっとキツイな~と思いますが、むしろ一ヶ月かけてじっくりやりたい内容です。
1週間でマスター 小説を書くための基礎メソッド―小説のメソッド 初級編