「一週間でマスター 小説を書くならこの作品に学べ! 小説のメソッド2 <実践編>」
この本は以前まとめた「1週間でマスター 小説を書くための基礎メソッド」(初級編)の続きです。
目次は下のようになっています。初級編のおさらいが書いてあるのですが、かなり簡略化されています(初級編を読んでいるという前提なので)。特にハコガキについては、初級編でくわしく解説されています。
序章<初級編>のおさらい
第一日 短編小説とはなんだろう PART1
第二日 短編小説とはなんだろう PART2
第三日 短編小説のプロット
第四日 「書き出しについて」
第五日 「会話」について
第六日 「キャラクターについて」
第七日 実践としての短編小説
初級編のおさらいについてはこちらに「1週間でマスター 小説を書くための基礎メソッド」内容の一部まとめてあります。
それぞれのタイトル(課題)にもありますが、「短編小説」の書き方を中心に進みます。ちなみにここでいう短編小説は
(原稿用紙)30~100枚、内容は読む人を「ヒヤリ」、「ドキリ」とさせるもの、です。
内容については故・石川淳氏が示す長さと内容の関係を引用して筆者が簡略に書いています。
初級…ヒヤリ・ドキリ(読む人を一瞬でもヒヤリ・ドキリとさせること)
中級…ホロリ(落語で言うなら「人情噺」)
長編…複数の人生(出会いと別れのロマン)
実践編で使われている(引用されている)テキストは下記の通りです。使う場所は引用してありますので改めて購入する必要はありません。
- 『青い花』谷崎潤一郎著(谷崎潤一郎フェティシズム小説集 (集英社文庫)
)
- 『さぶ』山本周五郎(さぶ (新潮文庫)
)
- 『五千回の生死』宮本輝(五千回の生死 (新潮文庫)
)
- 『悪女について』有吉佐和子(悪女について (新潮文庫 (あ-5-19))
おすすめポイント
- 基礎編(初級編)が簡潔にまとまっている
- 具体的なテキスト(引用)、課題を元に詳しく解説されている
おすすめのタイトル
第四日 「書き出しについて」
「書き出し」において大切なこととは、を「さぶ」「トマトの話」「眉黒」「復讐」を元に解説しています。
書き出しとは、とても「大切」であると共に非常に「難しい」部分です。特に文学賞では初めの10ページで審査員の心を掴まないとアウトなど色々書かれています……、章に応募するかどうかは別ですが、作品のはじめの方で読むのを止められるのは辛いものです。そうならないためには、次の3つの法則があります。
- タイトル・小道具も含め、強烈なイメージが一つ残るようにする。
- いつ、どこで、誰が、何を、どうした、なぜ(5W1H)を明確に記す。
※すべて述べる必要はない。 - 長篇用の教科書・リストから、必要な点だけを選び、扶養と思える項目は、わざと・意図的に、書かずに捨てる。
ちなみに教科書は「さぶ」、リストはさぶ冒頭(引用部分)に書かれていた項目です。
- 時間(絵が見えるように、地名)
- 時間・季節・天候
- 人物の外見(体つき・服装・表情・対比を含む)
- 人物の性格(台詞・動作で示す)
- 人物の背景・生い立ち・過去・家族
- 読み手の興味を先へひきつける謎
- 現在の職業・環境・境遇
- 人物の関係・立場・位置(台詞を含む)
- 小さな動作・エピソード(後の大きな事件を暗示するものなら、さらに良い)
- 後に重きを成す人物
- 強く印象に残るキーワード・小道具
- 時間・場所を転換するための準備
ちなみに「さぶ」の冒頭は次のように書かれています。
小雨が靄のようにけぶる夕方、両国橋を西から東へ、さぶが泣きながら渡っていた。
双子縞の着物に、小倉の細い各帯、色のあせた黒の前掛けをしめ、頭から濡れていた。雨と涙でぐしょぐしょになってしまった顔を、時々手の甲でこするため、眼のまわりや頬が黒く斑になっている。ずんぐりとした軀つきに、顔もまるく、頭が尖っていた。
- 「さぶ」 山本周五郎 -
オレンジ字はリストに該当するものです。無駄なく簡潔に書かれていることがよくわかります。
特に、「泣きながら}や「眼の周りや頬が黒く斑になっている」とか「顔もまるく」などを見ると、他人の眼を気にしない「子ども」らしい行動が目に浮かびます。
参考:名作の書き出しのみを読みたい!という願いをかなえるサイトがありました。
【本の書き出し https://kakidashi.com/】
第五日 「会話について」
「会話」については『悪女について』を教科書に解説されています。
「会話について」という大項目の中に1~12まで項目がありましたが、特に面白かった項目、参考になった項目をピックアップします。
4 「会話」だけが会話ではない
声の調子やトーン、喋り方の特徴を「地」の文章で詳しく書くことです。読み手に文章を「音」として伝えるのに役立ちます。文章は「文字」ですから、音として表現することによって作品の雰囲気やキャラクターの性格がよく伝わります。
『悪女について』から抜粋を引用します。
- 歯切れのいい調子で
- 大人びた言い方をしながら
- 小さな、というか、かそけき声というんですkなえ。心細そうな言い方をしました。
- 清純というのは、ああいう声じゃないでしょうかね。など……
8 すべては”絵文字”
絵文字というとウェブやメールの絵文字を思い浮かべますが、ここでは記号(「」や「!」、「、」)を解説しています。
「」自体も会話を示す記号ですが、普通は地の文を改行して書くので、読み手にとっては目立ち強調されます。
『悪女について』の公子の台詞、「生まれたのよ!男の子なのよ!あなたにそっくりだわ!見に来て頂だい!」を引用しています。
「!」だけでなく「よ」の繰り返しは視覚的にも公子のテンションが伝えてくれます。公子の息せき切った雰囲気や喜色が読み取れます。
また同じく公子の(白い錠剤を飲み、倒れて)「ここで、死なせて、頂く、つもり、です」の台詞からは、公子の声・口調・息遣いまでが伝わります。「、」は文章を読みやすくするだけでなく、こういった使い方も面白いですね。ポスターや本のタイトルなどでのキャッチコピーで「、」や「。」を使用したものがあります。文章のテンポやリズムを作り出すことができます。
- 「じぶん、新発見。」(1980年)(糸井重里)
- 「不思議、大好き。」(1981年)(糸井重里)
- 「あしたのわたしに、会いに行く。」(JR西日本)
- 「憶(おも)えば夏は。」(三和酒類株式会社 iichiko)
まとめ
冒頭の目次を抜粋したとおり、ほかにもキャラクターについて解説されています。命名のアドバイスもありました。
(キャラクター作りは、「キャラクター設定表をつくる」というページに私見ですがまとめてあります)
また読み手の立ち位置を決める、「枠物語」の考え方はとても納得しました(二次創作だと一番意識しない点だと思います……)。突然物語が始まるのではなく、一歩引いて読み手の立場を考えるというのが重要です。例えば「世にも奇妙な物語」のタモリさんや「昔々あるところに~」という昔話などが枠物語に該当します。書くことに必死なあまり読み手に「で?」って言われないようにしたいものです。
1週間でマスター 小説を書くならこの作品に学べ!―小説のメソッド〈2〉実践編 (1週間でマスター―小説のメソッド)