「書くことが思いつかない人のための文章教室」
近藤 勝重 幻冬舎新書
書くってしんどいと言えばしんどい作業です。でも書いたことで意外な発見があったり、人生の進路や生き方の再発見があったり、得られるものは貴重です。それに文句ひとつ言わずに自分を受け入れてくれるのは、文章のほかにそれほどたくさんはありません。書いて、もやもやしたした気持ちを晴らす。おすすめです。
-まえがきより-
【おすすめ ★★★★★(満点)】
結論から言うと、この本が最もわかりやすく書くモチベーションが上がりました。「小説を○週間で書く」等をテーマにした本も読んだのですが、意外にこの本が小説を書くベストブックかもしれないです。
内容は早稲田大学大学院のジャーナリズムコースでの授業内容の質疑応答を元にした「よくある質問」+「回答(解説)」が中心になっています。文章教室というタイトルですが、小説やエッセイの例文と解説になっていて、小説を書く人にも十分活用してもらえると思います。筆者が元毎日新聞記者とあって、説明(解説)が簡潔にまとまっています。
おすすめポイント
- 「よくある質問」に文章(小説)を書く悩みが網羅されている。
- 例文が海外文学~川柳とバラエティに富んでいる(読んでて楽しい)。
- 一つのテーマが簡潔で短く、すっと理解できる。
早い人は1~2時間あれば読んでしまうと思います。しかし、机のそばに置いて迷った時の道しるべとしたい本です。
以下、はっとした個所を引用します。
おすすめのタイトル
よくある質問「何を書けばいいのか」
回答「「思う」ことより「思い出す」こと」
真っ白な原稿用紙(あるいはモニタ)を前に呆然としてしまったことはたぶん誰でもあると思います。
あるいは書きたいことはあるのだけれど、具体的にどう表現していいかわからない。時間だけが過ぎていく……、悪夢ですね。
そんな時には「思い出す」というのが一つのキーワードになります。「思い出す」内容は必然的に自分の経験や記憶から持ってきます。その時の風景や気持ち、空気も一緒についてくるのではないでしょうか。
例えば「失恋」についてどう「思う」?と尋ねられた時は「辛い」とや「さびしい」といった言葉が出てくると思います。
本人にとっては全くその通りなのだと思いますが、表現上ではいかにも平凡な気がします。あるいは他人事のようにもとれますね。
失恋の経験をした人の気持ちを言い表す言葉としては、少し物足りないような気がしませんか。
では「失恋」について何を「思い出す」かと言われたら?
おそらく記憶の中の風景や自分の気持ちが呼び起されると思います。経験の中の体温のある気持ちが出てくるのではないでしょうか。(あるいは映画のワンシーンを思い出すかもしれません)
書く(描く)ヒント、きっかけとしてはこれ以上のものはないと思います。
「思う」ことより、「思い出す」ことがヒントです。
よくある質問「描写と説明の違い」
回答「説明は必要最小限度に」
ところで描写と説明の違いは下のとおりです。
説明…ある事柄が、よくわかるように述べること。(デジタル大辞泉より)
描写…物の形や状態、心に感じたことなどを、言葉・絵画・音楽などによって写しあらわすこと。(デジタル大辞泉より)
説明を長々と書くよりも、具体的な情景描写の方がしっくりことがあります。
描写への別の質問で「人プラス物で書こう」という回答がされていました。
物はそのままにしていては何も語りません。でも、感情を託して描くと静かに語り始め、あなたの胸の内までも表現してくれるのです。
歯ブラシはそっと寄り添うケンカ後も
亡夫の靴へふと足入れてみたくなり
※川柳は著作中で引用されていたものです。
誰かの残して(遺して)いったものが如実に誰かを語ることもあります。
よくある質問「五感の活用法」
回答「においひとつも敏感に」
文章や描写文では「五感」働きを描くことが重要ですが、時に「視覚」ばかり書いていることがあります。
つい、風景を説明するために見えるものばかり追いかけてしまいますが、実際には「におい」や「肌触り」、「音」も感じているはずです。「におい」や「音楽」でふっと懐かしい光景が鮮明によみがえったりします。
この章では、「5分間目を閉じ、耳を澄ます」トレーニングを紹介しています。目で見るよりも意外と「世界」を実感できるのかもしれません。
よくある質問「つい「思う」や「考える」を多用してしまいます。「感じる」もそうです」
回答「「思う」「考える」「感じる」を使わない文章」
「思う」「考える」「感じる」を多用しすぎると、主観的でもったりとした印象になってしまいます。使わないというルールで一度書いてみるとよいかもしれません。客観的な印象になり、スッキリします。
問題 次の文例は「思う」「考える」「感じる」を使った文章です。その三語を使わない文章に書きかえてください。
「コートを着て家を出たものの、風が冷たく感じられた。今日一日の仕事はほとんど外回りである。風邪気味であることも考えると、オーバーの方がいいと思い、家に引き返した。」
↓
「コートを着て家をでたものの、風が冷たい。今日一日の仕事はほとんど外回りである。風邪気味のなのでオーバーにしようと、家に引き返した。」
まとめ
紹介した項目以外にも小説や文章を書くヒントが詰まっています。初めて小説を書くという人はもちろん、ちょっと書き慣れてきたかなっていう人にもおすすめできるレアな本です。
語り口は違いますが、こちらの「誰も教えてくれない 人を動かす文章術」もぜひどうぞ。
こういう本を中高生のうちに読んでおきたかったですね、ほんと。