「2週間で小説を書く!」
清水 良則 幻冬舎新書
……問題は夏目漱石や芥川龍之介のような、歴史に残る大作家になれるかどうか、ではない。書かれた作品が、自分の人生とは別の価値をもって、自分の肉体とは別にこの世に生み出されるということである。いわばそれは、もう一人の自分を作り出すことであり、自分の人生の定められた壁を超えることでもある。
-第一章「小説の入り口 どうして書きたいの?より 」-
【おすすめ ★★★☆☆(3)】
実際のところ2週間でひとつの作品を書き上げる!というものではなく、『書くためのノウハウや心得』を習得する本です。小説創作の基礎体力を養う第1章、内容の吟味と洗練を目指す第2章、作家として世に出る道を探す第3章からなっています。
本文の他、「今さら聞けない30の質問」、1日ごとの課題×14日で構成されていて、1日ひとつの課題をこなしていけば2週間で終了します。※解答はありません。
おすすめポイント
- 本文がユニークで読みやすい
- 第2章小説の中身(ストーリー・キャラクター・描写)に詳しい
- 「今さら聞けない30の質問」は小説(作家)の基本的な疑問を網羅している
基本的に「楽しみながら書く」という本です。プロ作家としての心得なども垣間見えるので楽しい。印税じゃ生活できないんだ…とか。
おすすめのタイトル
創作メモを創作する
創作ノートには二つの性格がある
「ネタ帖」と「備忘録」
ともするとノートは、ストーリーや人物のキャラクターの設定、あるいは資料的なデータばかりになりがちだが、本当は「五感」を思い出させるような言葉が思いのほか役立つのである。何かをノートに書いたら、必ずそれに付随する「五感」を喚起する言葉をどんどん添えておくようにするといい。
視覚以外の情報も積極的にメモを取っていきます。目を閉じて耳に届くものは何なのか、触った感じがどんな感じだったのか…五感は読み手を引き込む大切な情報です。
「私」って何者?
どんな語り方を選んでも自由なのだが、大事なことは小説作品では語り方に一貫性が必要だということである。「私」の視点で書いているのに、話し相手の「彼」の内面が「このとき彼は心の中で、ちくしょうと罵り声をあげていた」などと説明される文章が出てくると設計が狂っていることになる。
これは小説を書くというテーマの中に必ず出てくる項目です。誰か視線を借りて伝えるのか?あるいは完璧な俯瞰視点で伝えるのか?初めの計画のうちに決めておいた方がよいです。ここをあいまいにしておくと、作品で言いたいことがブレてしまいます。
場面を作れ
職業、家庭、性格、友人や恋人、一人の人物の日常の背後にはまさにその人物の人生が潜んでいる。それをすべて書くことは不可能だし、必要でもないのだろう。しかし、それをうっちゃったまま先へ進むことはできない。必要最低限の、しかしありありと想像できるある人生のある日の日常を書き起こすことで、小説の場面の基礎は出来上がっている。いわば建物をつくるブロック材、レンガのように一つ一つの場面の日常がどれだけ堅牢に書けるか、小説がちゃんと”建つ”かはそこにかかっている。
この本の最後の課題は「何事も起こらない普通の日」を書くことです。映画もそうですが、物語で語られるのはその人物の人生のほんの一部です。その背景にはそれまで過ごしてきた人生の軌跡と、未来につながる出来事が必ず含まれています。そこがすっぽり抜けて、キャラクターの表面ばかり追ってしまうとものすごーくキャラクターと作品が薄っぺらくなります。特にオリジナルキャラクターはキャラクターの設定(ペルソナ)をはじめにつくることによって、深く検討するきっかけになります。書きたいストーリーが決まったらキャラクターを掘り下げてみるのも大切なステップだと思います。そのキャラクターの普通の日が想像できるくらいには考えぬくべきポイントです。
文末のマジック
バリエーションが多彩なのは、「だ・である」調である。たとえば「彼女はそれを見た」という文章でも、次のように文末を換えると、微妙にニュアンスが異なる。
彼女はそれを見たのだ。
彼女はそれを見たのだった。
彼女はそれを見たのである。
彼女はそれを見たのであった。
彼女はそれを見たわけだ。
大まかにいうと、ただの過去形の「だ・だった」よりも「のだった・のであった」の方が、語り口が大掛かりで荘重な印象になる。「わけだ」だと、洒脱なおしゃべりを聞いている感じになる。逆にいうと「た・だった」は語り手の声に染まっていないニュートラルな書き方になる。
文末ははっきとした間違いがなく感じ方で判断するので、かなり悩むところです。書いている最中にはあまり気にならないのですが、推敲したときに一番直すところかもしれません。過去形ばかり使ってると単調になる(音読してみるとわかります)ので現在系でいこうかな、なんかはいつも悩みます。文末なんて…とあなどるなかれ。実は作者のテンポのセンスがよくわかる場所です。
まとめ
課題はまだやっていないんですが(すいません)、12日目の「職場を書く」という課題は面白いですね。日常をどのように表現するかはかなり観察眼がないとできないことですし、新しい発見もあると思います。学生さんは「学校や自分の教室を書く」を、家にいる人は「家庭を書く」という課題でどうぞ。もしその環境を面倒とか嫌だとか思っている場合も、ぜひその嫌さ加減を表現してみてはいかがでしょう、とあります。
「今さら聞けない質問」は読み物として面白かったです。原稿料いくらもらえるんですか、とかなかなか知る機会もないので…。
冒頭に第3章は「作家として世に出る道を探す」とありますが、作家としてデビューする方法以外(推敲等)についても書かれてますのでぜひ読んでみてください。